渡良瀬川の散歩

matubarahasi3連休の最終日、3日目ともなると自発的に家を出て散歩をする気持ちになれる。わずかに数百メートルなのに、家を出ると不安になってくる。居ない間に、突然カアさんが戻ってくるような、不思議な不安感になる。

本当は仲が良かったのかな。互いに、決して相手を憎んだりはしていなかったと思えてくる。実家の事ばかりに専念してるようで、単なるヤキモチだったのかも。休日には、月に数回は家に居られて、その時には二人で松原橋の下、運動公園を散歩したものだ。ゴールデンレトリバーのメルが居た頃には、メルを連れて日曜日には散歩をした。あの平和な穏やかな生活が続くように、毎日がそういう生活に成れるようにと願ったものだ。

死後の世界として、天国と地獄というのがある。仏教などの東洋的な考え方としては、転生輪廻がある。六道輪廻から脱して、仏の世界へとの教えがある。最近は祖父に教えられた事を思い出す。幼い頃、祖父からは古神道的な考え方を学び、一族の菩提寺に行って住職からは仏教を教えられた。様々な経験をして、今は祖父に学んだ事だけを思い出す。

この松原橋にはある伝説がある。むかし、菅原道真の娘が都を逃れ、この地の河原のほとり、松の生い茂る松原に住み着いた。従者として老いた女性が数人共に来たという。都からは呼び戻す為の使者が来たが、姫はとうとう戻らなかった。やがて従者の人達が亡くなり、姫は土地の者からの援助を受けながら一人松原に暮らし、その姫も老いて死が近づいてきた。松原に深い穴を掘り、姫は自らその中に入り、「生きてる間は鈴を鳴らします。もし多くの人に災難がある時には、再び鈴を鳴らして知らせます。」といったとか。数日間鈴の音が聞こえ、それが聞こえなくなると村人はそこに祠を建てて祀ったという。長くその祠は村人に祀られてきたが、キャサリン台風の時に流されたという。その台風が近づいた時に、突然どこからともなく激しい鈴の音が聞こえ、村人は伝説に聞いてた、災害が近づいた時に鈴で知らせるという話を思い出し、避難して助かったそうだ。

そのキャサリン台風で祠は流され、今は鬱蒼とした松の大木も全て切り倒されて、全く昔の面影は無くなってしまった。松原橋が出来、橋の下も整地されて人々は楽しめるようになり、渡良瀬の流れの邪魔になるからと、松は切り倒された。この橋の辺り、少し下流は桐生川とも合流する所で、台風の時には多くの遺体が上流から流され、この松原に集まったという。

この話はおかしな所が多い。菅原道真の娘というと、これは平安時代という事になる。境野の土地に人が住み始めたのが、桐生城落城後の事だと聞いた。桐生城から落ち延びた数名がこの地に暮らし始め、ある程度の村になったのが江戸の始め頃だと記憶している。元々、境野の浜の境は、間々(まま)の境から変わったのもだ。間々とは土地の傍とか、この先の無い絶壁とかの上にある土地をいう。大間々は渡良瀬川上流の、大きくせり出してい高い絶壁にあった土地だ。各地の間々のつく地名を見ても分かる。また、菅原道真の娘である衍子(えんし)は宮中に仕え、後に皇女をもうける事になった、のが歴史だ。

史実は何が正しかったのかは分からないが、誰もが自分の生き方に納得をしていたのでは無いだろう。祖父からは昔の人の生き方やご先祖さん達の中の生き方を聞かされたが、本当に満足をした充実した生き方だったのかは分からない。菅原道真の娘は宮中に上がるよりも、この東国の地でひっそりと暮らした方が幸せだったのかもしれない。人の生き方は、木や川の水や路傍の石と何ら変わらないものだと思えてくる。生まれた時から与えられた「場」で、ただ懸命に命を全うしようとする、それが最も正しいと教えられて我慢をしている。その我慢の為に、懸命に生きて「場」を乱さなければ天国に行ける。あるいは六道の苦しみから解放され、清らかな仏の世界に行ける。そう教えられてきたように思える。

爺の教えからいえば、生きる事も死も、続きでは無く自然の流れの一部に過ぎない。死して水になり空気になり土に戻り、念いは遺された人の中に留まる。水も土も、やがては次の生き物の一部として生き続け、それが死して次の生き物の一部になる。山の中の石に耳を付けると、土の中の川のせせらぎが聞こえた。長く生きてきた大樹に抱きつき耳を付けると、木の呼吸も聞こえてきた。枯れ葉に埋もれて静かに横になってると、吹いてもいない風の流れが感じられてきた。それらの全てを受け入れると、生きるとか死ぬとかでは無く、全ての流れが感覚として受け入れられる、らしい。天候の変化も、農作物の状態も、人々の考え方も、その奧のものが感じられてくる、らしい。

散歩をしながら、さぞ無念であったろうカアさんの一生や、爺との懐かしい日々を思い出した。爺の孫で良かった。爺に様々な事を教えられ、田畑や山の中で多くの事を学び、自分は世界中で最も幸せな一生だったと思えてくる。

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