残り1時間の寿命

テレビで著名な霊能者だか、ヒーリング何とかというような人が、あなたは素晴らしい霊能力を持ってると言ったそうだ。その霊能者と親交の深かったカアさんが、一度だけ我が家にその人を連れて来た。その人は相手の考えてることも分かるそうだ。亡くなった人が見えたり、その人の念いが分かったり、様々な先のこと、人の寿命さえも分かったりするそうだ。そんな話を聞きながら、「本当に考えてることが分かるなら、当ててみろ。」などと様々なことを、顔で笑いながら話を聞き、頭の中でその人に話しかけていた。

その人が帰って、特にその事については何もカアさんは話さなかった。きっと、インチキなことにまた騙されてると思っていた。その時の事を後に聞いた。「ご主人は64歳までしか生きられない。実はもっと寿命は短かったが、家の福徳によって生き延びてきてる。65歳には成れないでしょう。」とのことだった。同時に、カアさんは残されて悲しみ、自殺をしても死にきれない。あなたの寿命は88歳頃まであるので、余計なことをしないで生き延びなさい、と言われたそうだ。そのカアさんは60歳まで4ヶ月前に死んだ。残されて、65歳には成れないと言われていたが、残り1時間で65歳になってしまう。

生まれた時に息をしてなく、祖父や父の力で呼吸を始めてたが、体が弱く10歳までは生きられないと言われてきた。一番心配してた祖父は、よほど不憫に思ったのか、家伝の古神道を通して様々なことを教えてくれた。古神道は宗教と言うよりも、自然との融合のように感じた。天候や地理、健康に関しては漢方のような考え方や薬草の話、時には山の枯れ葉に埋もれて風の音や木々の話し声のようなものも聞いた。山の下を流れる川のせせらぎのようなものも、枯れ葉の下の石に耳を近づけて聞いた。10歳を過ぎると、今度は20歳までは生きられないと言われ、勉強よりも遊べと言われてきた。ミシンの下やタンスの陰に隠れて本を読んでは、父に怒られていたものだ。

母は47歳で亡くなった。23歳の頃だった。料理は上手ではなかったが、祖父に教えられた健康食のようなものを実践して、いつも半強制的に食べさせられた。父は弟を自分の後継者として家業を継がせ、妹に事務を任せようと考えていたようだ。母が亡くなり、父は急激に様子が変わって弱くなっていった。弟は東京の大学に進学し、家からの援助は全く受けずに卒業して、上場企業に就職して、最近は更に大きな企業に転職をしたらしい。最初から役付なので苦労をしてるらしい。妹も家から出て、一時期は某化粧品メーカーに就職し、英語力を活かしてアメリカ支店へとの話も出ていたが、父が母の死をきっかけに強引に連れ戻し、今は幸せなのかどうか分からないが、相手の大勢の親戚の中では最も信頼を受けるまでになった。

自分はというと、何となくノラリクラリと生き延びてきて、気が付けばいつの間にか通常以上の健康体になり、とうとう残り1時間で65歳になる。20数年以上も前になるが、家業の借財が返済不能近くまでなり、カアさんは実家の問題で相談も出来ない状況があった。運良くバブル期で、担保も何もないのに借り入れだけは出来てその日暮らしは続いていた。

『天雷无妄六三』と、ある占い師から言われた。占いなどというものは全く信じていなかったが、遊び半分で聞いてたら、同じ卦が出たとか何とか、訳の分からないことを言われた。積善の家に生まれ、思い通りに生きて行けば、累代の積み重ねられた多くの人の善意が助けてくれる、とか何とか。要はそういう卦が出たらしい。古本屋で『易経精義』なる本を買ってはみたが、何度読んでも意味が分からない。余計なことをせずに生きろと言うことらしい。その後、借金返済のための借金を重ねようとした時、曾祖父に恩義があるという人に会った。その人の取り計らいで、数年後には半分以下にまでなり、今後は決して安易な借り入れはしないように言われた。

父から継いだ家業は閉鎖になってしまったが、一人になってもまだ、こうして何となく生き続けている。88歳まで死ねないと言われたカアさんが亡くなり、65歳には成れないと言われていた自分は、あと30分で65歳になる。様々な悩みを解決し、亡くなった人の言葉を伝えてきたチョー素晴らしい霊能者の言葉を裏切ってしまうようで、実に申し訳がない。

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